東京高等裁判所 平成10年(ネ)4504号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙目録の「賃貸借物件の表示」に記載の建物部分を明け渡し、かつ、平成九年一二月一日から右明渡し済みに至るまで一か月四五四万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二本件事案の概要
本件は、控訴人(一審原告)が被控訴人(一審被告)に対し、原判決別紙目録の「賃貸借物件の表示」に記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を賃貸していたところ、賃貸借契約の更新を拒絶して、本件建物部分の明渡しと賃料相当損害金の支払を請求した事件である。したがって、本件訴訟の争点は、右更新拒絶に正当事由があるかどうかである。
原判決は右更新拒絶に正当事由はないとして控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴に及んだものである。
第三当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人は、昭和六〇年一二月一六日、被控訴人に対し、本件建物部分を、賃料は定額分として月額二八〇万円のほか歩合分として毎年二月、六月及び一〇月の各四か月ごとのボーリングゲーム売上高が四〇〇〇万円を超えたときは超えた額の二〇パーセントを支払う旨定めて賃貸した(以下、この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。
2 その後、本件賃貸借契約の賃料について、次のとおり合意された。
(一) 昭和六二年一月、同月以降の賃料の定額分を三〇〇万円とすることが合意された。
(二) 昭和六四年一月一日、同月以降の定額分を三二〇万円とすることが合意された。
(三) 平成四年一二月一日、平成五年一月以降の定額分を三五〇万円、歩合分を毎年二月、六月及び一〇月の各四か月ごとのボーリングゲーム売上高が四〇〇〇万円を超えたときは超えた額の二五パーセントとすることが合意された。
3 本件賃貸借契約は、その期間が平成九年一一月三〇日まで更新されたが、控訴人は被控訴人に対し、平成九年四月一〇日ころ到達の書面で、更新拒絶の通知(以下「本件更新拒絶」という。)をした。
4 本件更新拒絶には、以下のとおり正当の事由があるから、本件賃貸借契約は平成九年一一月三〇日をもって終了した。
(一) 原判決別紙目録の「建物の表示」に記載の建物(以下「本件建物」という。本件建物部分はその一部である。)は昭和四六年か四七年に建築されたものであり、昭和五六年の建築基準法の改正後の耐震基準を満たしていない。
(二) 平成七年一月に発生した阪神・淡路大震災を契機として同年一二月二五日に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(以下「耐震改修促進法」という。)が施行された。
そして、控訴人は、平成八年四月一日、長野市長から、耐震診断及び耐震改修を早急に実施するようにとの通知を受けた。
(三) 前記のとおり、本件建物は現行の建築基準法の耐震基準を満たしていない上、一階が鉄筋造のピロティ方式の駐車場で、二階、三階のボーリング場及び二階ないし四階の事務所の部分は鉄骨造の複合構造であって、地震による倒壊の危険性の高い要素をもっている。
しかも本件建物部分は多数の人の出入りが予想されるボーリング場である。
また、長野県では昭和四〇年八月に松代群発地震が発生し、昭和四五年六月の終息宣言までに長期にわたって大きな被害が生じた。本件建物から約五〇〇メートル離れた地点には善光寺地震断層が走っている。
(四) 本件建物について、平成一〇年三月に「特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針」(建設省告示第二〇八九号)に基づく精密診断が行われたが、耐震安全性について「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い」と判定された。これは、十勝沖地震(マグニチュード七・九)、宮城県沖地震(マグニチュード七・四)程度の振動・衝撃で倒壊し崩壊する危険性が高く、千葉県東方沖地震(マグニチュード六・七)程度の振動・衝撃では倒壊し崩壊する危険性があるという趣旨である。
(五) 以上のような社会的背景、本件建物の状況(倒壊の具体的危険性がある。)からすれば、本件建物について耐震改修工事をする必要性がある。
そして、耐震補強工事は技術的にも困難であり、新築工事費が八億〇八〇八万円と見積もられるのに対し、補強工事費は八億五五八〇万円と見積もられ、本件建物は建て直す必要がある。
(六) 控訴人は、本件建物の一階部分を店舗等として三人の者に賃貸していたが、いずれも賃貸借契約を合意解約し、平成一〇年三月三一日までに退去したので、以後一階の店舗は空き家となっている。
5 平成六年一月から平成九年八月までの賃料(固定分及び歩合分)の平均は月額四八七万七五〇〇円であるが、平成九年一月から同年八月までの平均は月額四五四万四〇〇〇円であるので、控訴人は、賃料相当損害金として月額四五四万円と主張する。
6 よって、控訴人は被控訴人に対し、本件建物部分を明け渡し、平成九年一二月一日から右明渡し済みに至るまで一か月四五四万円の割合による賃料相当損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項ないし3項は認める。
2 同4項は争う。以下のとおり、本件更新拒絶には正当事由は存しない。
(一) 本件建物は現行建築基準法上も適法な建物であり、その現況も、朽廃又はこれに近い状態に至っている危険な建物ではない。
現在、昭和五六年の建築基準法の改正前に建築された建物は多いから、本件における控訴人の主張が認められれば、日本全体の約三分の二以上の民間の建物及び多くの官庁の建物等がすべて倒壊の具体的危険性のある建物として取り壊しの必要性があるという極端な結論に至る。
(二) また、大地震があった場合に建物が崩壊する危険性があるというのは、起こるかどうかも分からない自然現象を前提とした抽象的で不確実な仮定の議論にすぎず、本件建物が崩壊する差し迫った具体的危険性があるというものではない。
過去に大きな地震があったからといって、今後も大地震が起こるという根拠にはならないし、控訴人は、善光寺地震断層の存在する科学的な裏付けや、地震断層があるとどの程度の危険性があるのかという点について何ら具体的に主張していない。仮に地震断層と地震との因果関係があるとしても、地震が発生するかどうか、ましてやマグニチュード六・七以上の大地震が当該地域に起きるかどうかは結局極めて不確実であるといわざるをえない。
このような不確実、不明確な事柄を正当事由において考慮することはできない。
(三) 被控訴人は、本件建物部分において十数年間にわたりボーリング場を経営しているが、右経営のために多額の資金を投入しており、まだこれを回収済みではない。
右ボーリング場は、被控訴人の種々の営業努力によりようやく一定の固定客がついたところであり、他の物件に移り同様のボーリング場を続けるとすれば、多額の費用を支出しなければならないだけではなく、右固定客を失うため、多額の損害を被るおそれが大きい。
したがって、被控訴人には、本件建物部分を今後も長期間にわたって賃借しなければならない高度の必要性がある。
(四) 控訴人は、以前本件建物部分においてボーリング場を経営していたが、業績が不振であったことから被控訴人に対してボーリング場の経営をもちかけ、本件賃貸借契約の締結に至った。被控訴人はその後、ボーリング場経営の業績を上げてきたが、控訴人は、平成九年四月ころに至って突然、自分がボーリング場を経営したいとして本件建物部分の明渡しを求めてきた。これを被控訴人が断ると、その後は明渡しの正当事由として本件建物の取り壊しの必要性を強調してきた。
このような控訴人の態度の変化を見れば、控訴人の真の意図は被控訴人を立ち退かせ自らがボーリング場経営を行うという点にあり、耐震改修工事は口実にすぎないと考えざるをえない。
3 同5項は知らない。
第四当裁判所の判断
一 請求原因1項ないし3項の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、控訴人のした本件更新拒絶に正当事由があるかどうかを判断する。
1 証拠によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件建物についての建築確認は昭和四六年三月三一日にされ(甲一八)、「昭和四七年一月一六日新築」を原因として表示の登記がされている(甲一)。
(二) 本件建物は、三階建で、一部は中二階を含めて五階建であって、主な用途は一階が駐車場と貸店舗、二、三階がボーリング場である。
一階は鉄筋造のピロティ方式の駐車場で、二、三階のボーリング場及び二、三、四階の事務所は鉄骨造で、複合構造になっている。ピロティ方式は、壁がないか少ないために、ほぼ柱だけで上部の重量を支えており、地震時の水平方向の荷重に対して脆弱である。また、複合構造の建物は、鉄筋造と鉄骨造の固さが異なるため、地震の際の各部分の揺れ方が異なり、鉄筋造の上に鉄骨造を有する場合は単一構造の建物より揺れ方が増幅され倒壊の危険性が大きい。
(甲一〇、二三)
(三) 昭和五六年の建築基準法施行令の改正により、新しい耐震設計基準が定められたが、本件建物はこの基準には適合しない(乙二、甲二三)。
(四) 平成七年一月に阪神・淡路大震災が発生したが、その際の建築物の被害状況は、特に昭和五六年以前に建築された、現行の耐震基準を満たさない建築物の被害が顕著に見られた。
このため、国民の生命、身体及び財産を保護するため、現行の耐震基準に適合しない建築物の耐震改修を全国的な課題として早急に推進することが必要であるとされ、建築物の耐震改修を重要な施策として推進するため、法的な枠組みを整備するとともに、その円滑な推進のために建築基準法の特例措置や金融上の支援措置を講ずる必要があると考えられ、耐震改修促進法が制定され、平成七年一二月二五日から施行された。
そして、同法二条及び同法施行令一条によれば、学校等多数の者が利用する建築物(ボーリング場も含まれる。)で、階数が三以上で、かつ、床面積の合計が一〇〇〇平方メートル以上のもののうち、建築基準法上耐震関係規定について既存不適格建築物であるもの(特定建築物)の所有者は、当該特定建築物について耐震診断を行い、必要に応じ、当該特定建築物について耐震改修(地震に対する安全性の向上を目的とした増築、改築、修繕又は模様替え)を行うよう努めなければならないこととされている。これは、これらの建築物の所有者には、これらの利用者が地震による建築物の倒壊等による危害を被ることのないよう、当該建築物の地震に対する安全性を確保する社会的責任があると考えられるので、これらの建築物の所有者に対して、努力義務を課すことにより、耐震診断及び耐震改修を自主的に行うよう促すこととしたものである。
同法三条は、「建設大臣は、特定建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため、特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針を定め、これを公表するものとする。」と規定しているが、これは、特定建築物の所有者に対して耐震診断及び耐震改修の努力義務を課しているので、当該所有者が自主的に耐震診断及び耐震改修を行う際の基準や指標を示す必要があることから、耐震診断及び耐震改修の客観的な指針を建設大臣が定め、公表することとしたものであって、当該指針については、平成七年一二月二五日建設省告示第二〇八九号「特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針」として定められている。
さらに同法四条は、所管行政庁が特定建築物の所有者に対し特定建築物の耐震診断及び耐震改修について必要な指導及び助言をすることができること、所管行政庁が特定建築物のうち床面積の合計が二〇〇〇平方メートル以上のものについて必要な耐震診断又は耐震改修が行われていないと認めるときは、当該建築物の所有者に対し、必要な指示をすることができること等を定めている。
(乙七)
なお、本件建物の床面積の合計は六六三五・〇三平方メートルである(甲一〇)。
(五) 長野市長は、平成八年四月一日付けで、控訴人らに対し、「建築物の耐震改修について」と題する書面を送付した。
この書面の内容は、耐震改修促進法が施行され、特定建築物の所有者には耐震診断及び耐震改修を行う努力義務が課せられたことを述べた上で、「地震による被害から生命、身体及び財産を保護し、「災害につよいまち」にするため、耐震診断及び耐震改修を早急に実施していただくようお願いいたします。」というものである。
(甲三)
(六) 控訴人は、平成一〇年三月、本件建物について、北野建設株式会社に建設省告示第二〇八九号に基づく耐震診断を依頼した。
右診断は、二階以上を支える一階部分のみの診断でも、建物の耐震性や補強の必要性を確認することが可能であると判断されたことなどから、一階の鉄筋造の部分だけを対象として行われた。その結果は以下のとおりである。
構造亀裂、変形及び変質並びに老朽化に関する目視による調査の結果、不同沈下に起因すると思われる構造亀裂は認められず、耐震上考慮すべき不同沈下は生じていないと判断され、柱、梁部材には構造耐力上問題となるひび割れはほとんど認められなかった。また、右調査の範囲では、構造体の変質・劣化の進行は軽微であり、健全性が保たれている。
本件建物の耐震性能診断の結果は、「構造耐震指標」は東西方向が〇・三六、南北方向が〇・三四(せん部材については〇・二七)であり、「保有水平耐力に係る指標」は東西方向が一・一九、南北方向が一・一三であった。前記建設省告示によれば、耐震診断の判定は三つに分類され、分類(一)の「構造耐震指標」が〇・三未満の場合又は「保有水平耐力に係る指標」が〇・五未満の場合には「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と評価され、分類(三)の「構造耐震指標」が〇・六の場合で、かつ、「保有水平耐力に係る指標」が一・〇以上の場合には「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が低い。」と評価され、(一)、(三)以外の場合(分類(二))は「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性がある。」と評価される。本件建物は、東西方向の「構造耐震指標」が〇・二七であり、〇・三未満であるので、分類(一)となり、「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と評価される。
(甲一〇、一一、原審証人滝澤一孝)
(七) 前記建設省告示において定められた基準は、「建築防災協会による耐震診断基準」の診断を参考として策定されたものであるが、右の「建築防災協会による耐震診断基準」において想定する地震動は、昭和四三年の十勝沖地震(マグニチュード七・九)及び昭和五三年の宮城県沖地震(マグニチュード七・四)の地震を想定した場合の地震動である。
「構造耐震指標」と地震被害の程度には相関関係が認められ、十勝沖地震、宮城県沖地震の場合は、被害・無被害の境界は「構造耐震指標」にしてほぼ〇・六であって、十勝沖地震、宮城県沖地震では「構造耐震指標」が〇・六を上回る建物は被害を受けておらず、〇・四を上回る建物は大破、倒壊といった大被害には至っていない。昭和六二年の千葉県東方沖地震(マグニチュード六・七)についての被害・無被害の境界は「構造耐震指標」の値が〇・三前後であることが認められた。このような「構造耐震指標」の値と地震被害の関係から、前記告示の「構造耐震指標」の値が定められており、「構造耐震指標」が〇・三未満であれば倒壊又は崩壊といった大きな被害を受ける可能性が高く、〇・六以上であれば倒壊又は崩壊といった大きな被害を受ける可能性は低いと予想されるという評価によるものである。
また、「構造耐震指標」の値が〇・六以上と診断される建物であっても、極端に耐力が小さい部分がある建物は、少なからず被害を受けたことが報告されており、「構造耐震指標」の値とは別に最低限度の耐力を確保する必要が認められた。そして、「保有水平耐力に係る指標」が一・〇以上であれば必要最小限の保有耐力を有するものと評価し、〇・五未満のように必要最小限の半分程度の極めて耐力の乏しい場合には、「構造耐震指標」の値とは無関係にかなりの被害を受けると予想されることから、前記告示において「保有水平耐力に係る指標」について定められたものである。
結局、本件建物は、十勝沖地震、宮城県沖地震程度の地震の場合には倒壊又は崩壊する危険性が高いと判断されることになる。
(甲一一、原審証人滝澤一孝)
(八) 一八四七年(弘化四年)に善光寺地震が発生し、死者は約八三〇〇人に達した。その時、地表に表れた地震断層の一つが現在の長野県庁から信州大学教育学部に延びる「善光寺地震断層」であり、本件建物の近くを走っている。
(甲一六の一、二、一七)。
また、昭和四〇年に松代群発地震が発生し、昭和四五年に終息宣言が出されたが、その間に相当の被害があった(弁論の全趣旨)。
(九) 本件建物の耐震改修工事の見積額は、ボーリングレーンに関する工事費用は総額八億九九〇〇万円であるが、新築する場合の費用の見積額は総額八億〇八〇八万円である(甲一九の一ないし三、二〇の一ないし四、二四)。
(一〇) 控訴人は、平成九年一〇月から平成一〇年五月までの間に、本件建物の一階店舗部分の各賃借人との間の賃貸借契約を解除した(甲二一の一ないし三)。
2 右認定の事実に基づいて、正当事由の有無を判断する。
本件建物は耐震改修促進法にいう特定建築物に該当し、その所有者である控訴人は、耐震診断を行い、必要に応じ、耐震改修を行う努力義務を負っている。そして、耐震診断の結果によれば、本件建物は、十勝沖地震、宮城県沖地震程度の地震が発生した場合には倒壊又は崩壊する危険性が高いと判断される。
しかし、本件建物には、構造亀裂は認められず、柱、梁部材のひび割れもほとんど認められない。構造体の変質、劣化の進行は軽微であり、健全性が保たれている。
そうすると、問題は、大地震が発生した場合の危険性であるが、本件建物の所在する地域において大地震が発生する可能性があるのかどうか、可能性があるとしてその確率がどの程度のものであるか、何時発生すると予想されるのか、全く不明であるというほかはない。かつて善光寺地震や松代群発地震が発生したことがあること、本件建物の近くを善光寺地震断層が走っていることは認められるが、これらの事実がこの付近において大地震が発生する可能性が大きいことを裏付けるものであることを認めるに足りる証拠はない。大地震が発生する具体的危険性は認められないといわざるをえない。
控訴人が、真実、本件建物の地震による倒壊等の被害の発生を危惧してその改築を企図しているとすれば、そのこと自体は、右被害から国民の生命、身体及び財産を保護することになり、公共の福祉の確保に資するものであって、耐震改修促進法制定の趣旨に沿うものであり、望ましいことである。
しかし、このような目的で改築を行う場合であっても、賃借人の権益についても顧慮する必要があることは当然の事理であって、賃借人が、合理的な理由に基づいて、直ちに賃借部分を明け渡すことはできないと主張する場合には、その賃借人の権益は十分に保護されるべきものである。被控訴人は、本件建物部分において長期間にわたってボーリング場を経営しているのであるから、直ちにその明渡し請求に応ずることができないというのはもっともなことである(なお、被控訴人が、投下した資金を既に回収済みであることを認めるに足りる証拠はない。)。
したがって、控訴人の本件更新拒絶に正当事由があると認めることはできない。
三 そうすると、控訴人の本件請求はいずれも理由がない。
第五結論
以上の次第であって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 西田美昭及び裁判官 榮春彦は、いずれも転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 矢崎秀一)